AQUA OZONEはなぜ“介護とペット”だったのか。
184のアイデアから導いたノーリツの新規事業の意思決定
「お湯が出る」——。
給湯器メーカーである株式会社ノーリツ(以下、ノーリツ)にとって、それは長年にわたり当たり前に提供してきた価値でした。しかし、その“当たり前”は裏を返せば、「それ以上の価値をどうつくるか」という問いと常に向き合い続けることでもあります。
生活者にとって、給湯器はすでに十分に機能しているプロダクトです。だからこそ、新たな付加価値を生み出すことは簡単ではありません。「どのような新たな価値を展開するか」という次の成長につながるテーマ探索や、コア技術の活用が限定的であるという課題として顕在化していました。
そうした状況の中で、ノーリツが着目したのが「ニオイ」や「菌」といった衛生領域です。そして、その挑戦の起点となったのが、AQUA OZONE(アクアオゾン)という技術でした。
本記事では、ノーリツがどのような課題認識を持ち、どのような意思決定を経て新規事業に踏み出したのか。そのプロセスを、開発の起点から紐解いていきます。
※本インタビューは、Incubation CANVAS TOKYOにて、撮影のご協力をいただき実施しております。
※引用元:新規事業Talks「AQUA OZONEはなぜ“介護とペット”だったのか。184のアイデアから導いたノーリツの新規事業の意思決定|新規事業Talks|大企業の新規事業を深掘りするインタビューメディア」

株式会社ノーリツ
国内事業統括本部 マーケティング部 温水商品企画グループ
高見澤 佑美氏
2023年に中途入社。前職では異業種にて法人営業、サービスやアプリの企画や新規事業企画・推進に従事。ノーリツ入社後は温水商品企画グループに所属し、AQUA OZONEを軸とした新規事業の立ち上げを推進。
ユーザー起点での課題探索からプロダクト企画、協業パートナーの開拓・連携、PR・プロモーションまで一貫して関与し、介護・ペット領域における事業化を実現する。現在はAQUA OZONEの用途展開および事業拡大に取り組んでいる。
第1章|なぜ今、新規事業だったのか、そして技術はどのように生まれたのか
既存事業の課題と技術の可能性。ノーリツの意思決定の出発点
――まず、AQUA OZONEの取り組みについて伺う前に、そもそもなぜ今回のような新規事業に取り組まれたのか、その背景から教えてください。
課題はいくつかある中で、大きかったのは国内給湯器事業において、新たな付加価値を生み出しづらくなっていたことです。
生活者にとって、給湯器はお湯が出ることが当たり前の存在になっています。その中で、それ以外の付加価値をどうつくるかが課題でしたが、新しいネタがなかなか出てこない状況がありました。
――既存事業の延長線上では、新しい価値が生まれにくい状態だったということですね。
既存の延長線上だけでは、新しい価値を生み出すのが難しい状態でした。
また、ノーリツには除菌・脱臭効果を発揮するオゾン水を生成する技術「AQUA OZONE」がありますが、当時は給湯器や浴室暖房乾燥機のみに搭載しており、このコア技術の用途が非常に限定的であることも課題でした。
そこでニオイや菌といった衛生領域に着目し、生活者の困りごとに対しノーリツの技術で解決できないかと考えたのが、今回の新規事業の出発点になっています。
――その技術自体は、どのように生まれたものだったのでしょうか。
2018年に、開発メンバーが新しい技術を探している中で、喫煙所に置かれていたオゾンの脱臭機を見たことがきっかけです。
そこからオゾンについて調べる中で、水であればより安全に活用できることが分かり、またノーリツの事業との親和性も高いと判断がされ、技術開発を進めることになりました。
さらに、オゾンを広めたいという考えを持つ研究者との出会いもあり、この技術を社会に展開していこうという流れが生まれました。
――技術としては、最初から今の形だったのでしょうか。
最初はペットボトルほどの大きさがあり、そのままでは給湯器に搭載できない状態でした。
そこで小型化を進め、最終的には手のひらサイズまで縮小することで、既存製品への搭載が可能になりました。
第2章|184のアイデアから何を選ぶのか
Wemakeとともに意思決定の質を高めたプロセス
オゾン水生成技術 AQUA OZONEデバイス
――その技術をもとに、新規事業として展開していくにあたり、どのようにアイデア創出を進めていったのでしょうか。
給湯器や浴室暖房乾燥機に技術を搭載した後に、この技術をもっと広げていけないかという話になりました。
ただ、新規事業検討の中でアイデアがなかなか出てこないという課題と、そもそもどのようにお客様や現場と接点を持ち、困りごとの声やニーズを引き出せば良いのか分からないという課題がありました。
既存事業の中だけで考えていても、どうしても発想が広がらないので、外の力を借りる必要があると考えました。
そうした中で、ユーザーから広くアイデアを募りながら、課題起点で検討を進めていく手法として、Wemakeを活用することにしました。
――実際に活用してみて、いかがでしたか。
考え方として、ノーリツのスタンスと近いと感じる部分が多くありました。
お客様の困りごとを起点に考えるという点に加えて、それが本当に課題なのか、他の方法で代替できないのか、本当に自分たちがやるべきなのかといった問いを立てながら進めていくスタイルが、今回の取り組みにフィットしていました。
――実際にプロジェクトは、どのように進んでいったのでしょうか。
AQUA OZONEを活用したアイデアを募集したところ、最終的に184件のアイデアが集まりました。
想像以上の数で、この技術にはこんなに可能性があるのかと感じたのを覚えています。
――そこから、どのように絞り込んでいったのでしょうか。
最初に評価軸を決めたうえで、集まったアイデアを一つひとつ丁寧に確認しながら、その軸に沿って選定していきました。
課題の大きさや市場規模、ノーリツがやるべきかどうか、技術的に実現できるかどうかといった観点です。
その結果、最初に17件まで絞り込みました。
――かなり一気に絞り込まれたのですね。
全体の1割程度まで絞った形になります。
その17件については、アイデアを出してくれた方とやり取りをしながら、さらにブラッシュアップを進めました。
ブラッシュアップされた内容をもとに、さらにマーケットの状況や代替品の有無なども深堀をし、最終的に6件まで絞り込みました。
――そこから、どのように進んでいったのでしょうか。
その6件については、アイデア投稿者とWemakeのメンバー、ノーリツの企画・技術メンバーでチームを組んで、一緒に企画を練り上げていく共創フェーズに入ります。
このフェーズでのブラッシュアップが非常に重要で、ここで精度が上がらないと、その後の事業化が難しくなります。
初見で良いアイデアでも、実際に検討を進める中で成立しないケースもあるため、かなり丁寧に詰めていきました。
技術的な実現可能性はもちろんですが、やはりその課題はどのくらいの大きさや深さなのか、その課題解決にはAQUA OZONEが最も適しているのかを明確にするためにユーザーアンケートやヒアリングなどには特に力を入れました。
最終的には、その中から介護とペットの領域を選んだという流れになります。
第3章|なぜ“介護とペット”だったのか
共創フェーズで見えた「事業化できるアイデア」の条件
――その中で、最終的に介護とペットの領域が選ばれた理由は何だったのでしょうか。
最終的な判断において一番大きかったのは、課題の強さです。
介護の領域では、実際に介護施設で働いている方がアイデアを出してくださっていました。
排泄介助時、服についた排泄物を水で手洗いする際に、換気ができない個室の中でニオイを直接感じながら作業をするという状況があり、それが精神的にも身体的にも大きな負担になっているという話がありました。
その話をお伺いして「AQUA OZONEなら現場を変えられるかもしれない」と具体的にイメージできたのが、介護領域でした。
――実際の現場での検証も進められたのですね。
アイデアを出していただいた方と実際にオゾン水を使った検証も行いました。
その後も複数の業界関係者の方との意見交換を重ね、介護現場にも足を運びながら、現場の方の意見をもとにブラッシュアップを続けていきました。
――ペット領域については、いかがでしょうか。
ペットの領域も、実際にペットと暮らす方がアイデアを出してくださっていて、ペットの体臭ケアや、シャワーの負担を軽減できる可能性があると考えました。
――他にも候補となる領域はあったのでしょうか。
最終的に残った6件の中には、美容やアクアリウムなどの提案もありました。
どれも可能性はありましたが、代替手段が少ないことと、困りごとの深さという観点から、介護とペットの領域から始めるという意思決定をしました。
第4章|なぜ自社開発ではなく協業だったのか
スピードを優先した現実的な意思決定
三友商事株式会社に技術提供をしたオゾン水散水器 SN-O3 おじょろー
――介護とペットの領域に決定した後、どのようにプロダクト化を進めていったのでしょうか。
現場での検証を進める中で、最初に想定していたプロダクトの形も変わっていきました。
もともとは水道に据え置くような固定型の製品を考えていたのですが、現場へのヒアリングを重ねる中で、介護施設内におけるニオイや菌の困りごとは排泄介助時以外にもあるということが見えてきて、持ち運びができるハンディ型の方が適しているという判断になりました。
――そこは大きなピボットですね。
その形にしようとしたときに、ノーリツには充電式の製品をつくるノウハウがありませんでした。
自社で開発すると時間がかかってしまうため、協業で進めるという意思決定をしました。
――パートナー企業は、どのように見つけていったのでしょうか。
もともと関係があったわけではなく、実際に力になっていただけそうな企業様をリストアップして、こちらからアプローチしていきました。
アポイントを取り、打ち合わせを重ねる中で、今回の構想や実現したいプロダクトの方向性をご説明しながら、協業の可能性を一社ずつ検討していった形です。
最終的には、介護領域は三友商事株式会社と、ペット領域は株式会社アイレックスと進めることになりました。
――選定のポイントは、どこにあったのでしょうか。
ノーリツが持っていないノウハウを持っていることと、スピード感を持って一緒に進められるかどうか、
この2点を重視して見ていき、一緒に進めていくことにご納得いただけた企業様と取り組みを進めていきました。
――実際に協業してみて、いかがでしたか。
2社ともスピードが非常に速く、むしろそのスピードに合わせるのが大変なくらいでした。
ノーリツは意思決定に時間がかかる部分もありますが、今回のプロジェクトでは開発メンバーの推進力が強く、フットワーク軽く進めることができました。
――協業の形としては、どのような役割分担になるのでしょうか。
ノーリツがAQUA OZONEのデバイスを提供し、パートナー企業が製品として形にしていくという形です。
三友商事さんのSN-O3については、ノーリツでも販売をしていきます。
――開発の進め方としては、ゼロからつくり上げる形だったのでしょうか。
既存の製品をベースに改良していく形だったため、比較的スピードを持って進めることができました。
また、オゾン水の業界にはオゾン水の認知を広げていきたいという思いを持っている企業様が多く、ノーリツと一緒に取り組むことで認知向上につながるという期待もあり、前向きに協力していただけました。
結果として、スピードと技術の両立しプロダクト化を進めることができました。
第5章|どこに広げるのではなく、どの課題に当てるのか
ニオイと菌の課題に向き合い続ける展開戦略
――ここまでプロダクト化まで進んできた中で、今後の展望について教えてください。
今後は業界を限定し進めるのではなく、ニオイや菌といった課題が存在する現場やお客様に向き合うという考え方でAQUA OZONEを展開したいと考えています。
今回の介護とペットは、その第一歩という位置づけです。
他にも飲食店・厨房・工場・清掃領域や、育児や生活環境においてニオイや菌に悩むお客様は多く存在しているので、そうした課題を見つけていきながら、どのようにAQUA OZONEを当てていくかを考え続けていきたいと思っています。
――社内としての位置づけは今後どのように変わっていきそうですか。
現在は小さいチームで取り組んでいますが、将来的にはAQUA OZONE事業部のような形にしたいという話はしています。
もう少し大きな組織として、継続的に展開していける体制にしていきたいと考えています。
――ブランドとしての広がりも重要になりそうですね。
現状では、オゾン水自体の認知がまだ高くないので、まずはその価値を知ってもらうことが重要だと考えています。
水だから、どんな方でも安心して使うことができますし、水なのに、おどろきの効果を体感いただけるかと思います。
その中で、オゾン水といえばAQUA OZONE、AQUA OZONEといえばノーリツ、
そういった状態をつくっていきたいです。
――事業としての広がりと、認知の拡大が両輪になると。
プロダクト単体で広げていくというよりも、技術として、ブランドとして広げていくイメージです。
ニオイや菌に関する課題はまだまだ多くあるので、そこに対して一つずつ価値を届けていくことで、結果として事業としても広がっていくと考えています。
全国の新規事業担当者へのメッセージ
現場から見えた意思決定のリアルと、これからの挑戦
――最後に、新規事業に取り組む方々へのメッセージをお願いします。
正直、私自身もまだ模索している状態ではあるのですが、今回の取り組みを通じて感じたのは、やはり「とりあえずやってみる」ということの大切さです。
最初から正解を出そうとするのではなく、小さくでもいいので一歩動いてみることで、次の可能性や見えてくるものがあると感じました。
実際に動いてみないと分からないことも多くて、その中で初めて課題の深さや、本当に向き合うべきポイントが見えてくると思っています。
――やりながら学んでいく、というスタンスだったのですね。
加えて、自分の中では柔軟性もすごく重要だと感じています。
一度立てた企画に対して、どうしてもそれを正解だと思いたくなる部分はあるのですが、実際にはいろいろな意見や環境の変化があって、そのままではうまくいかないことも多いです。
そういったときに、自分の考えに固執しすぎずに、いろいろな意見を取り入れながら、本当にこれでいいのかと問い続けることが大事だと思っています。
――環境に応じて変えていく力が求められると。
環境や状況も変わっていきますし、関わる人によっても見え方が変わるので、そうした変化に合わせて柔軟に形を変えていくことが、結果として事業を前に進めることにつながるのではないかと感じています。
――最後に、ご自身として今後取り組んでいきたいことを教えてください。
AQUA OZONEに関わる仲間を増やしていきたいという思いが一番大きいです。
社内で一緒に取り組んでくれる人を増やしていきたいですし、社外でも、この技術を搭載した商品企画・開発をしたいと思っていただける企業様や、技術搭載商品の販売や推進をしたいと言っていただけるパートナー、そして何よりもAQUA OZONE搭載商品を気に入ってくださるお客様を増やしていきたいと考えています。
オゾン水自体の認知はまだ高くないので、まずはその価値を知っていただくことが必要ですし、
将来的には、オゾン水といえばAQUA OZONE、AQUA OZONEといえばノーリツ、
そう言っていただける状態をつくっていきたいと思っています。


